水野 陽介 先生
当院は「選択と集中」という理念のもと、心臓血管センター、消化器センター、呼吸器センターの領域で高度先進医療を提供する地域医療支援病院です。総合病院ではなく、救急科や救急専門医は在籍していませんが、二次救急病院として年間約5000台の救急車を受け入れています。これらの救急受診患者さんの約6割が循環器対応であり、すべて循環器内科医がファーストタッチを担当しています。もちろんこの循環器対応の疾患の中に失神も含まれています。救急外来で失神の原因が特定されなくても入院中に不整脈が同定される、またその後何度か循環器外来でフォローをすることによりリスクの高い心原性失神を見逃さないような体制は整っています。 しかしそれでも原因不明のまま再発を繰り返し困っている失神患者さんが少なくありません。先行研究1),2)より心原性失神が死亡・心血管系イベントのリスクが高いことは示されていますが、原因不明、再発性失神もそれに次いでリスクが高く、安易に良性な反射性失神と診断をつけることは適切ではありません。専門外来である失神外来を開設することでこのような患者さんの受け皿となり、また紹介先に困っている地域の医療機関からの紹介先としてお役に立てればと考えました。
References
1) Elpidoforos.S MD et al. New England J of medicine 2002:Vol347, No12.:878-885
2) Zimmermann T et al. Europace 2020 22; 1885-1895
当院の失神外来は2022年9月に開設し、事前予約が必要な外来としましたがしばらくは予約がありませんでした。当院の循環器内科外来は、予約外の患者さんであっても紹介状の有無に関わらずどなたでも受診が可能であるため、緊急性のある失神はそちらに受診することが多かったことも要因の一つと考えます。症例数の多いアブレーション患者さんの紹介元への診療情報提供書に下記のチラシを同封することや、地域医療連携の会を活用して失神外来の存在を認知してもらう事で、少しずつではありますが紹介頂くことが増えてきました。
失神外来開設から2年が経過し、2022年9月から2024年11月末までで合計30人の方が受診しています。内訳ですが、男性が20人 (66%)で年齢中央値は65歳(19-86歳)、初回失神が8人(26%)でした。当院の失神外来では、やはり見逃してはいけない心原性失神の除外のために、基本的な循環器的検査の他に7日間の長時間心電図や冠動脈造影CTは可能な限り実施し、初診時から植込型心電図記録計(ILR)を勧めています。失神外来を受診した方でILR植込みを受けた方は12人(40%)でした。ILRに関わらず、心原性失神の診断となった方は4人(13%)でした(非持続性心室頻拍2人, 心房細動1人, アデノシン感受性房室ブロック1人)。治療として2人にカテーテルアブレーション、1人にDDDペースメーカ植込み術を実施しています。 開設当初の失神外来では積極的なILRの活用で再発性失神の原因疾患、特に心原性失神を見逃さないことを第一に考えていました。しかし紹介頂くことが増え、合計30人の患者さんを診察した上で感じたことは、患者さんと紹介元のクリニックや総合病院の医師が困っていることの多くは”再発性の原因不明失神”であり、また良性と言われている反射性失神に対する適切な診断や治療が求められるということです。 当院での最終診断を下記の円グラフに示します。失神再発時のILR波形で心原性を否定されたことや症状からの臨床診断も含めますが、反射性失神が半数を占めることがわかります。この反射性失神の中にはILRで心抑制型血管迷走神経性失神の診断となった方、機能性食道の方も含まれています。心抑制型血管迷走神経性失神は40歳以上で繰り返していればペースメーカ治療の適応となりますが、このためには長期間の外来フォローと治療方針の相談が必要となります。これらの患者さんへ適切に治療方法を選択肢として挙げること、また生活指導やティルト訓練の実施、他科への紹介も我々失神外来担当医の重要な役割です。反射性失神と診断された多くの方は、「日常生活の飲水量に気をつけるしかない」などと言われ、「良性」とされるものの再発により日常生活で困難を抱えていることが多いです。これについて簡易な診断でフォローを終了することなく、十分に向き合う姿勢が求められると考えています。
失神外来の紹介元はクリニックが9人(30%)、総合病院が8人(27%)、内科病院が2人(7%)、そして脳神経科が11人(37%)でした。「失神したのでまず脳に問題がないか確認したい」、「クリニックの先生から最初に脳神経科を紹介された」という方が多くいました。失神は脳の病気、と誤解している方がまだ多く、この点は我々が今後啓蒙の必要があります。実際に、上記のように当院の失神外来で一番多い紹介元は脳神経専門病院と総合病院の脳神経科となります。もちろん、これらの患者さんのなかにはてんかんの方が隠れています。ですが、てんかんの診断も非常に困難なことが多く、我々が「少なくとも心原性失神は否定的です」とお返しすることで、繰り返しの脳波検査を行う根拠となるかと思います。 そして重要なのは、少なくとも循環器内科医一人の力では全ての失神症例の確定診断をつけること、正確な治療を行うことは難しいということです。失神外来は我々循環器内科医が行うことが多いですが、前述のてんかんを含めて一般の診療範囲には含まれない、非常に苦手な領域(少なくとも私には)が含まれています。当院の統計でも2人/30人は精神科領域である心因性失神/心身症を疑う病歴でした。精神科領域の薬は慣れていない我々が処方すると症状を悪化させる可能性もあります。幸いにも連携頂いた精神科クリニックが近くにあり、紹介し薬物加療が開始され当院と併診しながら経過をフォローしている方がいます。 当院が総合病院ではないこともありますが、失神外来を運営する上で、失神診療に理解が得られている他科、または他院の専門病院(脳神経、てんかんなど)、精神科クリニックの存在は必要不可欠かと考えます。失神外来受診されたうち、40%は他科または他院に紹介しています。CTなどで偶発的に肺癌が指摘された症例も含まれますが、てんかん再精査依頼で神経内科に2人/30人、精神科に3人/30人、機能性食道疑いで消化器内科に1人、めまいなどの症状について総合診療科へ1人を紹介しています。
また当院ではHP上に患者さん、医療関係者からの心電図のオンライン無料相談フォームを活用しています。近年、Apple Watchや携帯型心電計などを用いて医療機関を経由しなくても患者さんがご自身の不整脈を心電図で記録し診断補助をすることができるようになりました。しかし、これらのウェアラブルデバイスによる不整脈診断の精度は上がっているものの波形や症状の確認が必須となります。持参して外来受診されてももちろんいいのですが、ご相談フォーム(患者さん用, 医療従事者用)から簡単な背景情報と心電図のPDFを添付頂ければ24時間以内にメールで受診の必要性などを返信しています。失神精査のためだけではなく、不整脈や原因のわからない症状で困っている患者さん、そして医療関係者の方の一助になればと思っています。
販売名 / 医療機器承認番号
メドトロニック LINQⅡ / 30300BZX00278000
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