浜田医療センターで実施している、医師と診療看護師による失神診療の取り組みについて伺ってきました。
田向 宏和 先生
松田 晋 先生
アメリカでは1965年にNurse Practitioner(NP)の教育が開始されました。50年以上の歴史を経て、NPの裁量が拡大され、NPが自身の判断と責任で医療を提供する仕組みが導入されてきています。日本の診療看護師(Japanese Nurse Practitioner、以降JNP)は、厚生労働省が推進しているチーム医療の一端を担う役割として創設の検討が重ねられ、日本看護協会では、「ナース・プラクティショナー制度の構築の推進」を重点事業に位置付けています。現状では「診療の補助」としては原則的に認められていなかった行為、例を挙げますと、胃ろうのボタン交換や体腔に留置されたドレーンの抜去などを、医師の指示のもとに行います。また、混雑している外来では患者さんに問診をさせていただくことを始め、身体診察、必要な検査の選択などを行い、専門医の診療につなげる初期診療に携わります。
JNPは、2010年4月より2年過程のJNP養成コースが始まり、2020年4月時点で487名のJNPが活躍されています。
当センターでは、3名のJNPがおり、1名が循環器科に所属し活動しています。医師には、外来やカテーテル検査、手術に専念してもらうために、JNPが以下の活動を行っております。
また、2019年4月からは島根県で初の失神外来が開設され、循環器内科医とともに、失神外来での診察、検査、患者さんの相談を行っております。また臨床検査技師とも協力し植込み型心臓モニタ(ICM)のデータ管理、解析も実施しております。
2016年に植込み型心臓モニタ(ICM)が導入される際に、循環器内科の先生から失神診療をやらないかとのお声がけがありました。その後、ICMにて心原性失神を診断した症例を複数経験し、また診断できない症例も経験し、それらをきっかけに、失神診療をより詳しく勉強するようになりました。
当センターでは、2017年4月から2019年3月までに救急外来を受診した約2万人の患者さんの中で、意識消失の患者さんは193名のみでした。その内、予後を判定するスコアであるOESIL risk score*1)3点以上の患者さんは40名でしたが、そのうち24名は入院または外来での介入がありませんでした。このような状況が分かり、リスクの高い患者さんに対し、専門外来での介入が必要ではないかと考え、2019年4月に失神外来を開設しました。
失神診療に携わるようになって、不整脈性失神だけでなく、失神の診断をつける過程、考え方を学ぶことができました。また、問診の仕方は、他の診療でも役に立ちますのでJNPとして成長できていると感じます。
失神外来が開設される前は、意識消失の患者さんをどの科で診療するかが明確になっていませんでした。失神外来開設後は、救急外来だけでなく、開業医の先生方で診断に困っている患者さんを紹介していただけるようになりました。失神を繰り返す患者さんは、原因が分からないことで不安な気持ちを抱えている方が多数いらっしゃいます。専門外来を行うことで、そのような患者さんの失神の原因を特定し、不安を低減してあげられたことはメリットがあると思います。また、患者数は増えましたが、JNPが診療に携わることにより、医師の業務量も低減していると思います。
本邦では諸外国に比べNP制度の構築が遅れています。NPを上手く活用することで、先生方の負担低減にもつながると思います。日常業務の一部をシフトしていただくことで、業務を共有することによるメリットや働き方改革という側面でも貢献できると思いますので、是非診療看護師と話をしてみてください。
欧米に比べ、日本における失神を専門に診る診療科はかなり限られています。また重篤でないとはいえ、反射性失神も単純な経過観察のみで、適切な診断/対応がとられず、困っている患者さんもおられます。忙しい日常診療の中で、さらに新しい専門外来を立ち上げることは大変かもしれませんが、各種のコメディカルと協力することで、医師個人の負担も軽減できると思います。興味を持ってくれるコメディカルを巻き込んで、日本版の失神外来を始めてみてはいかがでしょうか。
*1 Eur Heart J,2003,24,811-819
注)原因不明の失神患者さんの診断に用いる植込み型心臓モニタ(ICM)の植込みは、医療機器の添付文書においては「植え込み手技のトレーニングを受けた医師が行うこと」となっておりますのでご注意ください。