専門医の取り組み

第5回 国保旭中央病院
循環器内科と救急科の連携のご紹介

失神診断における循環器内科と救急科の取り組みについて伺ってきました。

国保旭中央病院循環器内科笠井裕平先生
国保旭中央病院
循環器内科

笠井 裕平 先生


失神患者さんの現状

日本では失神患者が年間80万人程度*1、そして救急外来患者の2-5%が失神患者と言われています*2,*3。当院では、救命科指導医バックアップのもと、初期研修医(2年目)が中心となり、救急外来を担当しており、2~5回の救急外来当番で1回は失神患者さんに遭遇するため、失神診療は避けて通れない現状があります。

失神診断を専門に実施するようになったきっかけは

私は大学時代から循環器医になることを決めていました。研修医になり、心内心電図やカテーテルアブレーション治療を目の当たりにして不整脈医の道を志すようになりました。ただし、失神に関しては、診断学であることもあり、苦手意識を持っていました。循環器医になってからも、苦手意識が薄れることはなく、循環器医1年目の時に、原因不明の失神患者さんに植込み型心臓モニタ(ICM)を植え込むことになったのをきっかけに失神診療及びICMの勉強を始めました。その時にMedtronic社主催のICM勉強会に参加し、講師の先生方から、専門医としての失神診療に必要不可欠な知識を教えていただきました。また「循環器内科医であるのであれば、治療学だけでなく、診断学にも精通しなくてはいけない」と講師の先生から言葉をいただき、診断学が大部分を占める失神診療にのめり込むようになりました。
失神の原因を特定できた時に患者さんが安心してくれること、また院内で失神を専門に診られている先生がおらず、自分が失神診療を任せてもらえたということ(ICMは、低侵襲のため若手の先生でも一人で実施させてもらえること)から、日々やりがいを感じながら、地域中核病院の失神診療の中心的役割を担わせていただいています。

循環器内科と救急科の連携を強化しようと思ったきっかけは

失神を含む意識消失発作を起こした患者さんの大半は救急外来にきます。家族や周りの人が心配になってすぐに病院を受診させるからです。しかし、救急外来受診時には無症状であることが多く、危険度の判断が難しい状況です。“帰してはいけない患者さん”を拾い上げるためには、リスクの層別化が重要です。「失神の診断・治療ガイドライン」にも明記されている高リスク基準の大部分は、不整脈原性失神であり、この不整脈原性失神の患者さんは、“帰らせてはいけない患者さん”でありながら、診断のつきづらい失神であるため、救急外来と循環器をつなぐプロトコールの作成が急務でした。

救急外来と循環器をつなぐために具体的にはどのようなことをされたのでしょうか

まず重要なのは、失神診療の中心は救急医だということを認識してもらうことです。そして、救急外来で失神患者さんを診た時、「診断をつけなくてはいけない失神」と「診断がつけられない失神」(診断が難しい反射性失神と不整脈原性失神)があるということを理解した上で、その場で循環器内科医を呼んだ方がよいのか、後日外来でフォローすればよいのかをまずは若手医師(初期研修医)に判断できるようになってもらいました。特に、危ないと言われている心原性失神の中で、救急外来で診断をつけなくてはいけない「構造学的心血管肺疾患による失神」と、診断がつけられない・つけづらい「不整脈原性失神」に分けて考えることが重要であることを理解してもらいました(以下の図参照)*4

失神 | 表

具体的には失神診断に必要な心電図の判読方法、心エコーの診方、問診のやり方、実際の診断結果のフィードバック、症例検討を繰り返し実施しています。非専門医に対してはなるべく「明確な基準(少しover-indicationくらいがベスト)」を提示するように心がけています。具体的には、問診は以下の表4)を参考に実施してもらっており、また以下の図4)を使用して「帰宅可能」と「入院または循環器内科へのコンサルト」の判断をしてもらっています。
また最近では、当院で実際に原因不明の失神患者さんに対してICMを留置した患者さんが増えてきているため、ICM留置後の経過(不整脈がみつかったかどうか等)を伝えることで、ICMの重要性・有用性を理解してもらっています。

失神のRedflag
帰宅可能かどうかの判断に主眼をおいた失神の分類

勉強会を実施していく上で工夫されたことはありますか

救急診療にたずさわる初期研修医に対して、単純な座学だけではなく、実際に循環器内科にコンサルトした患者さん、しなかった患者さん、それぞれどのような根拠で判断したのか、その判断根拠が正しかったのかなどを振り返ることを繰り返しました。そして、一番気を付けていたことは「怒らないこと」です。

勉強会を繰り返し実施したことでどのようになりましたか

3,4回勉強会を実施するだけで適切なコンサルトができるようになってきます。循環器専門医でないにも関わらず、専門医のようなアセスメントをしてくれる研修医もいます。
その結果、初期研修医の先生たちが自信をもって診療できるようになってきており、危ない失神を早く見つけることができるようになってきていると思います。

*1 古川俊行,2017,失神外来を始めよう,文光堂, P.5.
*2 Hori S. Diagnosis of patients with syncope in emergency medicine. Keio J Med 1994; 43: 185-191.
*3 Suzuki M, Hori S, Nakamura I, et al. Long-term survival of Japanese patients transported to an emergency department because of syncope. Ann Emerg Med 2004; 44: 215-221.
*4 笠井裕平、坂本壮, 2020,2,Heart View 失神患者が来たら!原因を探り,サインを見逃さず,診断・治療を確定する , Medical View , P.11-20.

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