専門医の取り組み

第8回 湘南鎌倉総合病院
循環器医師による失神診療 -救急科との連携構築-のご紹介

森山典晃先生_湘南鎌倉総合病院
湘南鎌倉総合病院
循環器科

森山 典晃 先生


ERにおける失神の現状と取り組みのきっかけ

当院は、神奈川県鎌倉市にある救命救急センターとして2021年には年間救急患者52,722人、その内救急搬送は18,026台を受け入れました。理念である断らない医療を実践し、日本一の救急患者数をこの数年維持しています。45歳以上の成人の生涯失神有病率は19%と報告されており、約半数が最低2回の失神発作を経験する*1)と報告されています。失神は、コモンディジーズであり、非心原性であったとしても一定の確率で外傷を契機に入院や命を脅かす疾患であると言えます。元々、ER医であった私は経験的に失神を救急の現場でマネージメントすることは非常に困難であるという感覚を持っています。生命予後不良である心原性疾患を過酷な救急の現場でスクリーニングを行い、かかりつけ医のいない患者を安全に自信を持って帰宅させることはほぼ不可能であると言えます。その一方で、循環器内科での失神患者のマネージメントはどうでしょうか?心原性失神を疑い入院精査を行うも診断がつかず、数年の外来フォローの合間に複数回の失神を経験して再度ERを受診するという経験はみなさんあるかと思います。すなわち、失神を専門とするべき循環器内科でも失神のマネージメントには難渋しているというのが現状ではないでしょうか。そのような状況の中、”古典的な手法による失神診療”に対して、”植え込み型心臓モニタ(ICM)を用いた失神診療”が格段に失神確定診断につながる報告を知りました*2)。困難を極める救急現場での失神診療を、ICMを用いれば虚血/弁膜症医の私でも効率よくERと連携を構築できるのではと考えたのが取り組みのきっかけです。失神患者さんは何科を受診して良いかわからずに様々な科を受診され困っておられることが報告されており*3)、患者さんの診断の一助になりたいこと、患者を断らないER医の情熱に応えたいとの思いから連携方法を考え始めました。

2) ER-循環器連携パス

2017年に最初の取り組みを始めました。当初は手探りであったため、他院をまねて心原性失神鑑別のためのチェックリスクを作成しERに配布しました。失神を疑った際に、チェックリストを使用し心原性に当てはまる項目があれば循環器内科の外来に紹介してもらうという構図でした。しかし、取り組み以降、ERから紹介された失神患者さんは半年でたったの3人でした。それ以降、2018年初旬まで紹介は一人もありませんでした。ここから学んだことは、①忙しいERではチェックリストは煩雑で普及しない➁循環器内科の誰が診るのか明確でない、結果として”失神=循環器へ紹介”というシンプルな構図が定着しないといったことでした。2021年から第二弾のプロトコールで連携を再開しました。それは、以前の反省を生かし極めてシンプルなパスを作り上げました (図1)。

失神 | 失神一過性意識消失発作

ガイドライン上は、失神であることの判断、リスク評価と介入の二段階のプロセスが必要ですが、ERの医師には失神であることの判断のみをしていただき、”ER失神紹介“枠に予約していただくようにしました。そして、循環器内科側の負担も軽減するため、外来受診前に必要最低限の採血/心電図、そして心臓超音波検査と24時間Holter心電図検査を行っていただくプロトコールでスタートしました。このプロトコールの、利点は①ER医の負担が極端に少ない、➁循環器医も患者さんが受診する前に病歴/一般検査を確認できるため、リスク評価がある程度行える、➂ERから各科に散らばる失神患者さんを一箇所の一人の医者のもとに集約が可能となることです。そして、ガイドラインに準じてICMを用いることで失神患者さんの診断向上につながることを目的としました。

3) ER-循環器連携パスの結果と今後

2021年6月から取り組みを開始し、2022年12月までの10ヶ月間で179人外来に紹介がありました。一月あたり9-10人の患者さんの紹介があった計算になります。初回失神例18%、再発性失神例64%でした。適応を満たした患者さんの内115例に対してICMを移植しました。図2のように、移植後のフォローアップ期間に従って診断率が上昇していくことがわかります。

失神 | 失神一過性意識消失発作

一年での診断率が46.9%であり、一年以降も確定診断される割合が上昇しています。これらの結果を受けて、ERの先生方へのフィードバック行うことで、外来紹介数は減らずに少しずつ増加している現状です。実際に開始してみて、このプロトコールであればERの先生方も負担がない、私も外来の負担が極端には増えない、かつ患者さんの確定診断率も高く保てることから、”効率よく安全に失神のマネージメント”が行えているのではと実感しています。循環器内科の失神の窓口に立つのが不整脈専門医でなくても、ICMを効率的に使用することで失神外来は十分可能ではないかと考えています。また、その一方でやはりERの先生方は失神マネージメントに困っており、そこに介入することは臨床的ニーズが大きかったのであると感じています。 今後は、さらにERの先生方と連携をとり“新しい形の失神マネージメント”のロールモデルになればと期待しています。

References
*1 Am J Med. 2006;119:1088.e1-7
*2 Circulation 2001; 104:46‐51.
*3 Europace 2011; 13: 262–269

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