循環器内科で実施している心原性失神を見逃さないために実施している取り組みについて伺ってきました。
知念 敏也 先生
当院は、沖縄県にある3次救急の一つとして年間救急受診患者数22,000人、救急車搬送患者数は5,000台ほど受け入れており、ドクターカー・ドクターヘリなどによる病院前救急診療にも力を入れています。日本では失神患者が年間80万人程度1)と言われており、救急外来患者の2-5%が失神患者2),3)と言われていますが、当院では年間140人前後(0.6%)となっています。以前は失神患者さんの中で循環器にコンサルトされる割合が少なくなっていました。そのため、予後が悪い心原性失神を絶対に見逃さない!という気持ちで危険な失神を診断するための取り組みを始めました。その結果、ER失神患者数と植込み型心臓モニタ(ICM)の植込み数の推移をみたときに、ICM植込み数が増加していることがわかります。(表1)
救命救急センターは、初期研修医、後期研修医がローテーションで対応していることもあり、勉強会を実施しても情報がいきわたらないという問題がありました。そこで、ビジネスチャットツール(Chatwork, Slack など)を使用し、循環器への紹介チェックリスト(図1)を不定期に共有することで、医師が変わっても情報がいきわたるようになりました。このフローチャート活用によって、危険な心原性失神患者さんを紹介いただけるようになってきていると思います。
図1. 浦添総合病院 救急科で使用している紹介チェックリスト
循環器内科といっても専門性が異なるため、主治医によっては診療方針に違いが出るケースがあります。予後が悪い心原性失神を絶対に見逃さない!という気持ちで、循環器診療に関する知識、経験を向上させるための取り組みとして「カテカンファ」を実施することとしました。失神患者さんは緊急を要することが多いので、コンサルト当番の先生が他科からの相談を受けて、カテカンファ内で今後の治療方針を相談しています。
カテカンファは毎日17時から30~60分実施しています。参加者は循環器内科医8~10名、臨床工学技士2名、看護師2名で実施しています。翌日実施するカテーテル検査・治療などの適応や手技の詳細の確認と当日実施した全症例の振り返りをしています。単なる報告会にならないように、基礎的な質問も含め、不明点はその場で聞く、聞ける雰囲気を作るように心がけています。その結果、若い先生もベテランの先生もみんなで学ぼうという雰囲気で遠慮せずディスカッションしながら進めています。
カンファを実施する前は、個別判断で診療していた状況だったため専門性の違いから方針に違いがでていたこともありましたが、カンファ後は循環器チームとして適切な診断ができていると思います。そして、診療方針を議論することによって“診断力”“スクリーニング力”が向上してきているとも思います。また、心原性失神疑いの患者さんをICMによって診断できた経験など症例を共有することで“経験値”が向上することもカテカンファを実施するメリットだと思っています。例えば、私が過去に診ていた患者さんで、ICMによって失神の原因が冠攣縮性狭心症と診断できた症例を経験したことがあります。この経験から、失神された患者さんの中で冠攣縮性狭心症疑いの患者さんには、アセチルコリン負荷試験の検討をカテカンファでも提案しています。このようなカテカンファを継続することで当院でのICM植込み数は年々増加してきており(表1)、原因不明の失神患者の約2/3について診断が可能となっており、PICTURE Study4)と比べても遜色ない結果が得られています(表2)。このようなカテカンファを毎日実施することは苦になるかもしれないと思っていましたが、参加している先生方からは「継続していきたい」とポジティブな意見が多いです。
失神診療を専門に実施している施設はあまり多くありません。そのため、どの診療科に相談すればよいか悩まれることがあるかと思います。もし、めまい、ふらつき、動悸、気を失いそうになったなどという症状が患者さんにある場合は、心臓を調べた方がよいということを知っておいていただき、循環器内科の専門医にご相談いただくことをご検討ください。
*1 失神の診断・治療ガイドライン(2012年改訂版)
*2 Hori S. Diagnosis of patients with syncope in emergency medicine. Keio J Med 1994; 43: 185-191.
*3 Suzuki M, Hori S, Nakamura I, et al. Long-term survival of Japanese patients transported to an emergency department because of syncope. Ann Emerg Med 2004; 44: 215-221.
*4 Edvardsson N, Frykman V, van Mechelen R, et al. PICTURE Study Investigators. Use of an implantable loop recorder to increase the diagnostic yield in unexplained syncope: results from the PICTURE registry. Europace 2011; 13: 262–269.