失神治療を専門的に実施されている先生方に失神診断・治療におけるポイントや自施設での取り組みについて伺ってきました。
古川 俊行 先生
(前所属 聖マリアンナ医科大学 東横病院)
失神の診断において、問診はとても重要な役割を果たします。診断に必要な情報を得るために問診には一定の時間を要しますが、チェック項目形式の問診票を活用することにより、問診に抜けが少なくなり、問診時間の短縮にもつながります。また、事前に患者さんに回答頂いた問診票を見ながら当たりをつけ、問診を掘り下げることができるため、判断がしやすくなります。例えば、意識消失していた時間の長さにより失神なのか非失神なのかを判断できます。意識消失していたのが3時間であれば、失神ではないという診断になります。また、最近発生した失神の回数がどれくらいかにより、入院の適用を判断したりします。このように、一過性意識消失(T-LOC)から効率的に失神を鑑別していくために、問診票を活用しています。
当院では、失神外来に携わる先生と摺り合わせしながら、チェック項目を作り上げています。これにより医師ごとの問診のばらつきが無くなります。問診票は、「失神の診断・治療ガイドライン(2012年改訂版)」に掲載されている「表21 病歴チェックリスト」*1を参考にして患者さん用に作成し、どの項目にチェックが入っているかによって、心原性と反射性を端的に判別できるようデザインしています。現在の問診票はA4、1枚両面、フォント12ポイントで作成し、患者さんに確認すべき内容を絞れるものは絞り、チェック項目はミニマムの内容にしています。このため、問診票を使用する側の先生が、ある程度の失神の知識がないと活用できないツールです。知識がない人も活用できるツールにすると膨大なチェック項目数になり、漏れが出てしまう恐れがあります。問診票は、患者さんに確認すべき内容の当たりをつけるためのフィルターであり、更に必要な情報は、問診で掘り下げて聞き出します。やはり、失神診療に関する事前の知識習得は不可欠であると考えます。また、受診される患者さんの半分は高齢者の為、タブレット等の操作は難しく、紙媒体が良いと考えています。紙があれば後で見直すこともでき、診療に関わる他の医師との共通言語になるので確認がとりやすいという利点もあります。
提供元:聖マリアンナ医科大学 東横病院
現在では、失神外来のみで問診票を活用しています。患者さんが受付されたら、全員に問診票を配布し、事前に回答頂きます。診察の際には、問診票を見ながら患者さんと話せるので、抜け漏れがなく、時間短縮になります。また、行うべき検査が決めやすくなりました。救急科では未だ使用していません(2020年3月現在)。今後、内科外来であれば活用頂けるかもしれないと考えています。
当院では、問診票を活用し、T-LOCから失神と非失神を判別、失神のリスク層別化を行い、以下のフローで失神診療を進めています。
開業医の先生に、どのようなフローでT-LOCの患者さんを評価していくかを理解して頂くために、以下のフローチャートをご案内しています。このフローを確認頂くことで、神経内科や循環器内科への患者紹介を適切に行って頂けるようになります。救急隊など、失神にあまり詳しくない方に初診時の判断に使用頂くためには、チェック項目ではなく、このような概念のフローチャートが分かり易いかもしれません。こちらは循環器内科がICM植込みを実施している施設でT-LOCの患者さんを評価する場合のフローチャートの一例であり、いくつかパターンが考えられる為、病院によってカスタマイズが必要だと思います。
*1 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2011 年度合同研究班報告)、失神の診断・治療ガイドライン(2012年改訂版)より