長い時間にわたって立っていた時や興奮した時、疼痛や睡眠不足、精神的ストレスなどをきっかけに失神することが多く、そのきっかけが分からないこともあります。しかし、怪我をしなければ、生命にあまり影響がなく危険性の低い失神です。これを「血管迷走神経性失神」と言い、失神の原因としては最も多いものとなります。他にも、ある特定の状況(排尿、排便、咳嗽、嚥下、など)で発生する「状況失神」や頸動脈洞過敏等で発生する「頸動脈洞性失神」があります。
立ち上がった直後に失神します。神経疾患(自律神経機能不全)や脱水、降圧薬や利尿剤等の薬剤の影響による原因が考えられます。
不整脈や心臓の弁膜症等、心臓に関わる様々な理由で失神します。徐脈性・頻脈性不整脈が原因となることが多く、心臓突然死の原因となるため、早期の診断と治療が必要になります。
失神は色々な病気が原因で起こりますが、脳血管疾患(脳梗塞・脳出血、一過性脳虚血発作(TIA)など)による失神は少ないと言われています。
様々な原因で失神は起こりますが、長期的に見て、その中でも心臓に由来する病気が原因の場合(心原性失神)、他の原因による失神に比べて、生命を維持できる期間が短いと言われています。※1
また、心源性失神の場合は、心臓突然死の原因になることもあります。そのため、失神の原因が心臓の病気に由来するものかどうかの診断やその可能性の評価が必要になります。
※1失神の診断・治療ガイドラインJCS2012より
薬物治療や外科的手術の他に、徐脈性不整脈に対するペースメーカ、頻脈性不整脈に対する植込み型除細動器(ICD)、心房細動に対するカテーテルアブレーションといった治療法もあり、不整脈の種類や状況に応じて適切な治療が選択されます。次セクションでは、心源性失神の原因となる不整脈について具体的に説明します。
1分間の心拍数が100回以上になる不整脈です(健常成人の心拍数は60~99回/分)。
電気信号が異常に早く作られることや、異常な電気の通り道(副伝導路など)ができて電気信号が旋回してしまうことなどが原因で発生します。頻脈が数秒で停止すれば動悸を感じたり、めまいなどの脳虚血症状を伴ったりすることがありますが、持続すれば心臓突然死につながる恐れがあります。
1分間の心拍数が50回以下になる不整脈です。
洞機能低下や刺激伝導系の機能異常により発生します。めまいや失神などの脳虚血症状として症状が発生します。
失神の原因となる徐脈性不整脈として、洞不全症候群や房室ブロック、徐脈性心房細動などが挙げられます。反射性失神の場合にも、自律神経反射により二次的に徐脈性不整脈(心停止や房室ブロック)を呈することがありますので、注意が必要です。また、てんかん発作の場合でも同様に、自律神経の影響で二次的に徐脈や心停止を呈することが分かっていますので、治療を行なう上で注意が必要です。
心臓の弁、血管、心筋に明らかな異常がある疾患、あるいは心機能が低下した状態をいいます。
運動時に動悸あるいは胸痛がみられた場合、臥位や労作中に失神した場合、器質的心疾患に伴う失神例では、不整脈が失神の原因として疑われます。
急性心筋梗塞/虚血
肥大型心筋症
心臓腫瘤(心房粘液腫,腫瘍等)
心膜疾患(タンポナーデ)
先天的冠動脈異常
人工弁機能不全
急性大動脈解離
肺高血圧
心房の中で不規則に電気興奮が発生し、心房が痙攣したようになる不整脈です。心房の拍動数は1分間に300回以上となり、心臓は不規則に拍動します。加齢とともに発生率は高くなり、特に60歳を境に急激に頻度が高まります※1。男性は女性に比べて約1.5倍発症しやすいと言われています※2。
心房細動が起こると、心房は血液を心室へ送り出す役割を果たせなくなってしまいます。短期的には強い症状が現れることはありませんが、心房の中で滞留した血液が血のかたまり(血栓)をつくり、他の臓器の血管を塞いで脳梗塞などを引き起こすこともあります※3。
また、持続的に心臓に負担がかかることから、心不全の原因にもなります。
心房細動により、脈が遅くなる場合があり、失神の原因となることがあります。心房細動には、ペースメーカなどの心臓植込み型デバイスやカテーテルアブレーションで治療します。
※1Feinberg WM, et al. 1995 より
※2Framingham 研究(Kannel WB, et al. 1998)より
※3心房細動がある人の脳梗塞の発生リスクは、正常な心拍の人に比べて2~7倍高いことが分かっています(Wolf PA, et al. 1991、Krahn AD, et al. 1995、 Levy S, et al. 1999より)
ぐるぐる回るようなめまいや、ふわふわ浮いているようなめまいは、耳や脳に由来する病気の症状が疑われます。
脳の一部または全体に突然、過剰な電気的興奮が生じることにより、それに伴う部位の筋肉が痙攣をすることで様々な症状を生じます。脳の一部で激しい電気的興奮が生じる部分発作は「単純部分発作」と「複雑部分発作」に分かれます。また、脳全体で激しい電気的興奮が生じるものを「全般発作」といいます。意識消失を伴う発作は「複雑部分発作」と「全般発作」で、意識回復までの意識消失時間が失神に比べ少し長い傾向があります。失神との鑑別を要する一過性意識消失発作で発症します。
心理的なストレス・不安が原因で意識を失うもので、ヒステリー・パニック・興奮によるものなどがあります。心因性の場合、人前で発生し易く、意識消失に伴う外傷は比較的少ないとされています。
血糖値が異常に低くなると、意識障害や昏睡状態におちいることがあります。
肺疾患(肺塞栓など)や睡眠時無呼吸症候群などにより、体の血液中に酸素が十分に送られない状態が進むと、一過性の意識消失を起こすことがあります。